ポケットモンスター

惚れ薬


「カスミ」
 名前を呼ばれて振り向くと、そこにはなにやら黒い笑みを浮かべた少年の姿。

「サトシ、あんた……!」
 テーブルの上には空のグラス。
 確かあれには、タケシが騙されて買って来た『惚れ薬』なるものが入っていたはずだ。
 ポケモンセンターに帰って来てからただの酒だと判明し、がっかりしたタケシだったが、
「せっかく買ったんだし、サトシ飲んでみるか?」
 と言っていたのを思い出す。
 カスミはその時、「未成年なんだから駄目よ」と注意はしたが、ただそれだけで終わった。

 しかし今、彼女は猛烈に後悔していた。
「カスミ……良い匂いだ」
「ちょっ……」
 壁際に追い詰められた彼女に出来る事と言えば、殴ったり蹴ったり叫んだり。
 しかし、殴るための両手は押さえ付けられ、蹴るための足も封じられてしまった。
 最後に残った叫ぶための口だが、これも……
「んっ……」
 深い口付けによって塞がれた。 
 こうなっては、カスミがサトシから逃れる術は、もう残されていない。

(あの時、無理にでもお酒を取り返していれば……!)
 アルコール臭い口付けを受けながら、カスミはあれもこれもと一人反省会を始めていた。
 彼女の今までの経験からして、暴走したサトシを止める方法は……ない。
 こうなってしまったら、行き着く先はただ一つ。

「カスミ、お前が……欲しい」
 どこぞの変態と同じ台詞が、純粋なはずの少年の口から零れ出る。
 サトシは何度も何度も、カスミの耳に囁きかけた。「カスミが欲しい」と。
 それを聞かされる度に、彼女の身体から力が抜け、入れ替わるように熱が篭り始める。
「サトシ……あっ!」
 首筋を吸われ、痛みにも似た刺激が走る。
 それと共に、カスミの脚からは完全に力が抜け、床に崩れ落ちた。
 壁をずり落ちていく彼女を追って、サトシも身を屈めては首筋に唇を落とす。

「や、やだ待って!」
「待てない」
 カスミが必死に訴えるも、サトシは無情にも即答する。
 そうしている間にも、彼の手はカスミの服に伸びていく。
「熱いんだろ?」
 そういうサトシは、普段の彼からは想像もできないほど艶っぽい。

 これは、『惚れ薬』の効果?

 サトシから与えられた熱にうなされる中、カスミは小さく頷いた。


‥END‥


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