ポケスペ

  可愛い君は  



「イエローってさ」
 トキワの森、いつものように木に寄りかかって伸びをするイエローを、レッドはじっと見詰めた。
「何でしょう?」
 ここでもやはりいつも通りの微笑を湛えながら訊ねられ、レッドは「いや」と微かに頬を染めて彼女から目を外した。
「大した事じゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「似てると思って」
「似てる? 何にですか?」
 可愛らしい微笑をしまって、きょとんと首を傾げるイエロー。
 その仕草、ますます似ている。

「ピカチュウ」
「……え?」

 自分がポケモンに似ていると言われた事が理解できていないのか、イエローは暫らくポカンと呆けた顔をしていた。
 それを見て、レッドは思わず噴出してしまった。
「な、何でですか?」
「だって、似てると思ったんだ」
 そう言って、彼はイエローの麦藁帽子に手をかける。
 唾を持ち上げると、帽子は意図も簡単に彼女の頭から離れ、中から優しい光色をしたポニーテールが現れた。
 イエローは突然首にかかった髪の毛の感触に驚いたのか、慌てた様子で後頭部を押さえる。
 レッドは彼女の一つ一つの仕草を微笑ましく思いながら、長い髪を一房手に取った。

「黄色の髪の毛は柔らかいし、ポニーテールはまるでピカチュウの尻尾みたいだ。ほっぺたはふにふにで、たまに……赤くなる」
「レ、レッドさん……」
 手に取った髪の毛に口付けを一つ落とすと、レッドはその手でイエローの頬に触れた。
 彼女の顔は、頬だけに留まらず耳まで真っ赤になっている。
「見た目だけじゃないぜ?」
 ニカッと笑って、レッドは彼女の頬にもキスをした。
 途端に、イエローは手足をバタつかせて暴れ出す。
「レッドさん!」
「ホラ、こんな所もそっくりだ」
 赤面してレッドを睨み付けるイエローだが、そんな事で怯む彼ではない。
 ニコニコと相変わらずの笑顔を崩さぬまま、彼女を抱き締めた。

「ホント、俺が今まで見てきたどのピカチュウより……可愛いよ」
 耳元に囁きかければ、今までジタバタしていたイエローは、急に大人しくなる。
 その顔を覗き見ると、先程よりももっと……ピカチュウの頬と同じくらいに真っ赤になっていた。
「……ボクは人間ですよ」
「そうだな、可愛い女の子だ」
 レッドのその言葉によって、イエローの顔はオクタンにも負けないほど赤く染まった。恐らく、これ以上はないだろうというほどに。
 それを見た彼は、いよいよ耐え切れなくなって笑い出す。

「もう! レッドさん!」
「あーもー、イエロー可愛すぎ」
 遠慮と言う言葉を知らないのかと聞きたくなるほど笑った後、レッドは目尻に溜まった涙を指で拭い、頬をパンパンに膨らませているイエローを再び抱き締めた。
「……レッドさん」
「ん?」
 大人しく腕に収まっていたイエローが、もぞ、と動いてレッドを見上げる。彼もイエローを見下ろすと、彼女はヘヘッと照れ臭そうに笑った。
「大好きです」
「俺も、大好き」
 レッドはそう返して、イエローの淡い色をした唇に自分のそれを触れさせた。
 唇を触れ合わせるだけの淡い口付けは、思春期真っ盛りのレッドにとっては少し物足りない気もするが……
 幸せそうに笑うイエローを見たら、そんな事はどうでも良く思えてきてしまって、彼は優しいキスを数え切れないほど沢山、彼女の上に降らせた。


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