星来はいつだって、前を見詰めている。前進しようと努力している。
「どうして、星来はそんなに頑張っているの?」
訊ねてみると、星来は一瞬驚いたように目を丸くして、それからすぐに目を細めた。
「別に、頑張っているつもりはないのよ」
「嘘、そんな風には見えないよ」
しかし、星来は首を横に振り、足元から伸びる道の先に目をやった。
「私は私を超えてゆきたい。変わりたいの」
「どうして? 今のままでも、星来は優しい良い子なのに」
すると星来は肩をすくめ、小さく笑った。
「だとしたら、私は“優しいだけ”の私を超えなければいけないわね」
「どういうこと?」
私は星来が言っている事の、意味が分からなかった。首を傾げる私から視線を外し、星来は言葉を続けた。
「優しいだけでは、本当に必要な事に気付く事ができないわ」
それだけでないと、星来は言う。
「私、新しい世界が見たいの。だから変わりたいのよ」
一時の感情に流されず、目標を見失わずに歩き続ける。その先には必ず、新しい世界が待っている。
星来は言うと、私を見て長い髪を揺らして微笑んだ。
「華月も、新しい――素敵な世界を見てみたいと思わない?」
「新しい世界……」
例えば、争いの無い世界。
差別の無い世界。
皆が笑顔で暮らせる世界。
そして、誰もが夢に向かって真っ直ぐに進む事ができる世界。
「そんな新しい国をつくる事ができたら、どんなに素敵かしら」
「新しい国……」
星来が夢見る新しい国。
これを築く事ができたら、きっと皆幸せになれる。
「私も、そんな国に住みたいなぁ」
ほとんど無意識に口にして、それから隣の星来を見ると、彼女はとても嬉しそうに笑っていた。
「だったら、一緒に作りましょうよ。まずは私達の内側から」
いつも心に、新しい国を描き続ける。
そして、そこに暮らす自分自身に、少しでも近付けるように毎日を生きるのだ。
「何だかワクワクするね」
「でしょ?」
私が笑うと星来は頷いて、細めた目をますます細めて微笑んだ。
お題提供:せっとより、『新しい世界』