よく晴れた土曜日、私達は四人で街へ遊びに来ていた。
駅前にある有名な雑貨屋さんで、色取り取りのビーズを眺めている私を、理奈はじっと見詰めて言った。
「姫ってさ」
「うん?」
「どうして星にこだわるのかなって」
私が手にしている瓶には、星のようにきらめくスワロフスキーのビーズが詰まっている。
理奈はその瓶と私を交互に見て、「ごめん、聞いてみただけ」と目を背けてしまった。
「別にこだわっているつもりはないわ」
「でも好きなんでしょ?」
「ええ、大好きよ」
理奈の問いに答えながら、私は瓶を棚に戻した。
「買わないの?」
「使わないもの」
私はビーズでアクセサリーを作るつもりもないし、裁縫も得意じゃない。
麻美がそういう細かい作業が好きで、見たいと言ったから私も一緒に眺めていただけなのだ。
「ふーん……」
私が戻した瓶を眺めて、理奈が意味あり気な相槌を打つ。
「何よ」
「いや、別に」
何でもないと言いたいのだろうが、残念ながら私にはそうは見えない。
「言いたい事があるならハッキリ言って」
しかし理奈は相変わらず、「何でもないってば」と言ってきかない。
そして、何でもないのにも関わらず、彼女は私を見てはニヤニヤと口元を歪ませている。
……正直言って、ちょっと気味が悪い。
「な、何なの?」
「いやー、別にぃ? たださ」
言いかけて、理奈は棚の一番上に並べられた、ビーズのアクセサリーに手を伸ばした。
彼女は三つ並んでいるネックレスの中から、迷わずに一つを選び取ると私の目の前に翳した。
「これ、欲しいんじゃないかなって」
理奈の手の中で光る、小さなビーズの列。
シルバーの小粒のビーズがチェーンように輪になり、止め具の正反対側には星を模った金のペンダントトップがぶら下がっている。
「でも、展示用でしょう?」
「聞いてみようか?」
そう言うと、理奈は私の返事を聞く間もなくレジに向かって行った。
彼女は店員と何か言葉を交わすと、手に持ったバッグから財布を取り出してあっという間に会計を済ませてしまった。
予想もしていなかった理奈の行動に、私は何もできずにただ呆然と、レジから戻ってくる彼女を見詰めていた。
「ほら買えた」
「あ……」
ぽかんと口を開けている私の前に小さな包みを差し出され、そこでようやく意識を取り戻す。
理奈の顔を覗くと、彼女はいつもどおり、何て事ない顔をして私を見ている。
「そうだわ、お金……」
「いい」
ネックレスの金額分を財布から取り出そうとしたが、それは理奈に静止される。
「いいって……そうはいかないわよ」
「いいんだってば。だって姫、誕生日じゃん」
「そんな……って、へ?」
理奈の言葉に、私は思わず耳を疑い、ついで自分の記憶も疑った。
今は七月、今日は……七日。
世間では七夕だ何だのとお祭りムードが高まる日である。
それと同時に、この日は私の生まれた日でもあった。
「そういえば、私……今日で十七歳だわ」
「まさか忘れてた?」
呆れたような驚いたような声が、理奈の唇から零れ落ちた。
実は、そのまさかである。
今日は久しぶりに華月や麻美達と集まれるからと喜び、そちらの方に気を取られて、自分の誕生日などすっかり忘れていた。
「はあ……人の誕生日には、パーティーやらプレゼントやらって張り切るくせに」
「だって、久しぶりに四人で遊べると思ったら嬉しくて……つい」
最後の方は恥ずかしさから萎んでしまった。
頬が熱い。きっととんでもなく赤い顔をしているに違いない。
俯いてしまった私に、理奈は息を吐くと「その気持ちは分かるけど」と呟いた。
「……まあ、姫がそれで嬉しいと思えるなら良いけどね」
理奈は言うともう一度、先程の包みを私の前に差し出した。
「もらってくれるよね」
私は何故か少し躊躇ってしまったけど、小さく頷いて右手のひらを理奈に差し出した。
「誕生日おめでとう、姫」
「……ありがとう」
手に乗せられた重みは、ほとんどないに等しい。
けど、その存在感は抜群で、私の胸の中で眩しく輝きだしているようだった。