あったかい7のお題

前へ 戻る


7.て



「華月の手って、綺麗だよね」
「そう?」
 理奈が私の手を取って、じっと見詰める。
「剣道やってるっていうのに、マメの痕もないんだもんなぁ」
「そんな事ないよ。ホラ、これは去年のやつで、こっちが一昨年できたやつだよ」
 二年目にしてようやく消えそうになった痕を指してみるが、理奈は首を振る。
「言われないと分かんないよ」
「そうかなぁ?」
 私は顔を近付けたり遠ざけたりして、理奈と自分の手を見比べる。
「理奈の方が綺麗だと思うけど……」
 私から見れば、自分より理奈の手の方が綺麗に見える。

 幼い頃よりピアノをやっていたと言うだけあって、指はすらりと長く、爪も綺麗な楕円型をしている。
 色は白く、指先は薄いピンク色をしていて、本当に綺麗だ。
「良いなぁ」
 羨望の眼差しを向けられ、理奈は照れた様子で笑う。
「それだったら、姫だって綺麗だよ」
 理奈はそう言って、作業中の星来を見た。
「うん、星来のも綺麗よね」
 姫と呼ばれているだけあって、その手は理奈に負けず劣らず綺麗だと思う。

 彼女は今、先日インフルエンザで休んだ分のノートを移すのに必死になっている。
 麻美が手伝っているものの、あと半分も残っている。
 私達に見られていても、星来は気付かない。
「……しょうがないなぁ」
 二人で笑い合って、そっと近付いていく。
 そして、
「姫」
「こっち、まだだよね?」
 私達は星来の返事も聞かず、一冊ずつノートを手に取り手近な席に腰掛ける。

「そんな、悪いよ」
 星来はそう言うが、止める気などない。
「今日中に終わらせるんでしょ?」
 それなら、四人でやらなければ終わりそうもない。
「う……」
「人の好意は、素直に受け取りなさい」
 言葉に詰まった星来に、作業する手を止めずに理奈が言う。
「……ハイ」
 少しの沈黙を置いて、星来の嬉しそうな声が聞こえた。
 私達は、顔を上げて微笑みを交わした後、作業を続行した。


 二月某日。
 ようやく雪解けの兆しが見えた、放課後の出来事。


前へ 戻る


Copyright(c) 2007 Yumeko Yume all rights reserved.

-Powered by HTML DWARF-