「華月の手って、綺麗だよね」
「そう?」
理奈が私の手を取って、じっと見詰める。
「剣道やってるっていうのに、マメの痕もないんだもんなぁ」
「そんな事ないよ。ホラ、これは去年のやつで、こっちが一昨年できたやつだよ」
二年目にしてようやく消えそうになった痕を指してみるが、理奈は首を振る。
「言われないと分かんないよ」
「そうかなぁ?」
私は顔を近付けたり遠ざけたりして、理奈と自分の手を見比べる。
「理奈の方が綺麗だと思うけど……」
私から見れば、自分より理奈の手の方が綺麗に見える。
幼い頃よりピアノをやっていたと言うだけあって、指はすらりと長く、爪も綺麗な楕円型をしている。
色は白く、指先は薄いピンク色をしていて、本当に綺麗だ。
「良いなぁ」
羨望の眼差しを向けられ、理奈は照れた様子で笑う。
「それだったら、姫だって綺麗だよ」
理奈はそう言って、作業中の星来を見た。
「うん、星来のも綺麗よね」
姫と呼ばれているだけあって、その手は理奈に負けず劣らず綺麗だと思う。
彼女は今、先日インフルエンザで休んだ分のノートを移すのに必死になっている。
麻美が手伝っているものの、あと半分も残っている。
私達に見られていても、星来は気付かない。
「……しょうがないなぁ」
二人で笑い合って、そっと近付いていく。
そして、
「姫」
「こっち、まだだよね?」
私達は星来の返事も聞かず、一冊ずつノートを手に取り手近な席に腰掛ける。
「そんな、悪いよ」
星来はそう言うが、止める気などない。
「今日中に終わらせるんでしょ?」
それなら、四人でやらなければ終わりそうもない。
「う……」
「人の好意は、素直に受け取りなさい」
言葉に詰まった星来に、作業する手を止めずに理奈が言う。
「……ハイ」
少しの沈黙を置いて、星来の嬉しそうな声が聞こえた。
私達は、顔を上げて微笑みを交わした後、作業を続行した。
二月某日。
ようやく雪解けの兆しが見えた、放課後の出来事。