名前の呼び方 /
髪型 /
恋人座 /
サトルVS正悟 /
キスの味 |
髪型について話し合ってもらいました
「はいはーい! ショウちゃんに質問です」
「何?」
「ショウちゃんはどうして、ハリネズミのような頭をしているの?」
「どうしてって言われても、剛毛だからとしか言いようがないんだけど」
「じゃあ、どうして伸ばしてるの?」
「それは、兄ちゃんと間違われないようにするためかな」
「大悟さんと?」
「そ。身長差はあるけど、後ろ姿が似てるってよく言われていたんだ」
「じゃあ、髪を伸ばしてるのは、お兄さんとそっくりにならないように?」
「そうそう。この髪型なら、誰も間違わないから便利だよ」
「ふうん。そういう事だそうです、分かりましたかー?」
「誰に話しかけてるの?」
「内緒」
何の脈絡もない会話文。
オリオン座が、冬の夜空に大きく輝く。
きっと、他のどの星座より見付けやすいんじゃないかな。
そう思って、私は隣にいる彼に話しかけた。
「見て、今日はオリオン座がとても綺麗に見えるよ」
しかし、彼は「え?」と声を発して首を左右に動かしている。
まさか。まさかと思うけど……
「ショウちゃん、オリオン座知らないの?」
すると彼はピクリと肩を震わせ、小さく頷いた。
……うそ。
「や、だってさ、俺が教えられてきた星座って、全然一般的じゃないんだ」
驚きのあまり言葉が出ない私に、彼は慌てて説明を始める。
「例えば、あの一番明るい星と、あれとあれとあの星を結んで朱雀とか。あっちの赤い星から、朱雀の隣にある小さな星まで繋いで龍とか……町独自の星座があって、最近までそれしか知らなかったんだ」
星を辿る彼の指先を追っていくと、今まで見えなかった別の形が見えてくる。
今までオリオンが堂々と居座っていた空に、黄金に輝く大きな鳥と、巨大な龍が突如として現れ、私は思わず息を呑んだ。
……なんて素敵なんだろう。
私は心底感動して、彼の腕に抱きついた。
「もっと色んな星座を教えて」
彼は少し驚いたように肩を震わせたけど、すぐに微笑んで頷いた。彼の腕が再び、夜空に伸びる。
それから私は、彼から沢山の星座を教わった。
天女に狼、蛇、兎……鳥居なんてのもあった。そして残るは空の真ん中に陣取る、綺麗な三ツ星。
「ねえショウちゃん、あの三ツ星は?」
「ああ、あれ? あれは、家によって変わるんだけど、風見家では……」
そう言いながら、彼は私の耳に口を寄せる。
なになに? と思って私も進んで耳を貸すと、耳朶に彼の唇が掠ってドキリとした。けど、知られたら調子に乗るから、絶対に言わない。
掠れたような彼の声が、耳の奥に直接届けられ、私の心臓はまたもドキリと音を立てる。
「……そう、なんだ」
「うん、だからちょっと恥ずかしくて……後回しにしてた」
照れて顔を背ける彼の肩に、私はそっと寄りかかった。
何ともないような顔をしているけれど、心臓はバクバクしていて、音が聞こえやしないかと心配になる。
「あ、あさ……」
「私達の星座だね」
彼の声を遮って、囁いた。
「だいすき」
夜色に染まった彼の瞳が、大きく見開かれる。
そんなに驚く事かな? ちょっと不服に思ったのも事実だけど、次の瞬間に起こった事のお陰で、そんな事はどうでも良くなってしまった。
「ん……」
唇に、甘いキス。
それは何度も何度も繰り返され、離れる頃には冷たかった唇が、ほんのり温かくなっていた。
「俺も、大好き」
ぎゅっと抱き締められて、耳元に囁かれる。
それがとても嬉しくて、とても幸せで、私は彼の胸に顔を摺り寄せ笑った。
『恋人座』
手を繋いだ二人の姿。
私達もあんな風に見えているのかな?
恋風‐こいかぜ‐
サトルVS正悟
「おい少年」
「はい」
「何でお前はそんな物を持ってるんだ」
「そんな物って、刀の事ですか?」
「おう。何でそんな物騒な物……」
「別に不思議な事じゃありませんよ」
「いや、不思議だから」
「俺の兄も持ってますし」
「何で持ってるんだよ」
「必要ですから」
「どこで使うんだよ」
「まあ、色々と」
「その色々を知りたいんだよ!」
「じゃあヒントです。刀の用途を考えて下さい。多分それが正解です」
「刀の用途……って、それって犯罪だよな?」
「普通であれば重罪ですね」
「だよな? じゃあ何でそんな凶器なんか……」
「凶器じゃありませんよ、武器です」
「変わりねーじゃねーか」
「俺にとっては大きな違いです」
「どう違うんだよ」
「この剣は、ただ人を殺めるためにあるのではありません。大切なものを守るための物です。……少なくとも、俺にとっては」
「……ふーん。何だか良く分からねぇけど、捕まるような事するなよ」
「はい、捕まらないように気を付けます」
「『気を付ける』んじゃなくて、そういう事『すんな』って言ってるんだ」
「……はい」
(何なんだよ、今の間は!)
第43話直後の正悟とサトル(麻美兄)。
正悟は、サトル相手だとなんか強くなる。
『恋風‐こいかぜ‐』
〜キスの味〜
「ねえ、ショウちゃん」
こうして名前を呼ぶのは何度目になるだろう。
にじり寄って見詰めた正悟の瞳がほんの少し見開かれ、麻美は思わず口元を綻ばせた。
「どう、したの?」
「あのね」
エヘへと気味悪がられそうな笑い声を漏らしても、彼は首を傾げるだけで嫌な顔をしない。
ますます嬉しくなった麻美は、また少し正悟に近付いて、彼の開いた足の間に入り込んだ。
「あ、麻美?」
すると流石の正悟も驚いてか、声色が変化する。
しかし麻美はそれに構わず、相変わらずのにやけ顔で、至近距離まで近付いた彼の瞳を見詰めた。
「友達にね、聞かれたの」
「……何て?」
ここでようやく、正悟の顔が怪訝そうに歪む。
だがそれは不機嫌から来るものでないと判断できたので、麻美はその体勢のまま言葉を続けた。
「あのね、その……キ、スの、あ…………や、やっぱり良いや、恥ずかしい!」
「えっ、何それ。中途半端に切られたら気になるじゃないか!」
急に湧き上がってきた恥ずかしさから、彼女は話すのを止めて両手で顔を覆った。
彼の反応はもっともである。けれど、やはり恥ずかしさが勝るのだ。
正悟の鎖骨辺りを見詰めたまま、両頬を押さえて身体を揺する麻美だが、彼はそれを軽く抱き締めて押さえ付ける。
半ば無理矢理動きを止められて、麻美は微かに赤らむ顔から手を退けて正悟を見上げた。
「ショウちゃ……」
「えーと、何だっけ? キスの……?」
瞳の奥にに、怪しい光が見えた。
まずいかも。そう思った時には既に遅く、麻美の視界は彼の顔で埋め尽くされていた。
身体を引こうにも、腰をしっかり抱かれていて、動く事ができない。
「あ、あの……」
「教えてよ。何て聞かれたの?」
顔が、近い。
喋れば吐息がかかる程近くに、お互いの口がある。おそらく、どちらかが身動ぎすれば簡単に触れてしまうだろう。
麻美は眩暈を感じ、彼の瞳から視線を外した。これ以上見詰めていたら、気を失ってしまいそうな気がしたのだ。
「麻美」
しかし正悟はそれを許さない。彼女の名を囁き、頬に口付ける。
「は、離して!」
「離して欲しかったら俺の質問に答えること。そうじゃなきゃ、いつまでもこのままだよ」
にっこり、と文字が浮かびそうなほどの満面の笑み。
麻美は言葉にならない唸り声を上げて正悟を睨むが効果はなし。それどころか、口角を更に持ち上げてますます楽しそう
に笑った。
……敵わない。
そう悟り、麻美は正悟の色素の薄い瞳を上目遣いで覗き込み、ぼそぼそと聞き取りにくい声で言った。
「キ、キスの……あ、味ってどんなのかな? ……って」
「それで、何て答えたの?」
訊ねる声は、いつもより若干低い。その響きに脳を痺れさせながらも、麻美は俯いて更に小さな声で囁いた。
「その、相手の人の味がするんじゃないかなって……」
そよ風よりも微かな声だが、顔がくっ付きそうなほどすぐ側にいる正悟にはばっちり聞こえている。
彼は「ふーん」と相槌を打って満足そうに笑ったかと思うと、すぐにその笑みの種類を変える――何か、企んでいるような……。
「じゃあさ、俺の味ってどんな感じ?」
「そ、そんなのっ! い、意識した事ないから……」
しかし麻美は正悟から目を逸らしてしまっているため、その変化に気付かない。
彼は相変わらず愉快そうに笑いながら、麻美の腰に回した手にグッと力を入れた。そこで初めて、麻美は彼の意図に勘付き顔を上げる。
「奇遇だね、俺もなんだ」
目の前にある正悟の瞳は、これ以上ないと言うくらいに細められていて、それを見た瞬間、麻美はしまったと息を呑んだ。
「……だからさ、今から確かめてみようよ」
逃げようにも、抱き締められているから身じろぐ事すら侭ならない。いや、別に彼とのキスが嫌とか、そういう訳ではない。ないのだが……
そっと覗き見た正悟は、笑っている。悪戯を企む子供のような笑顔だ。
過去にも同じような表情の彼に、何度も捕まってはじゃれ付かれている。まるで人を気に入りのおもちゃの様に扱う彼のこの状態を、麻美は『悪戯モード』と呼ぶ事にしている。
特に危険はないが、腹が立ったり心臓に悪かったりと、あまり身体にはよろしくなさそうなのは確かである。
しかも正悟は、『悪戯モード』に入ると暫らくは通常に戻らないので、その間遊ばれ続ける麻美にとっては、厄介この上ない状態なのだ。
そして現在、麻美はその『悪戯モード』に突入している正悟に捕まっている。
普段からよく身体を鍛えている正悟に対し、どちらかと言えばインドア派の麻美は、このように腕で囲われてしまうと全くと言って良いほど歯が立たない。
肩を押してもビクともしない彼を、せめてもの抵抗として睨み付けるが、やはり効果はない。
「無駄な抵抗って言葉、知ってる?」
クスクスと笑って囁きかける彼の言葉に、麻美はとうとう逃げ場を失った事を認めざるを得なかった。
途端に身体の力を抜いた彼女に、正悟は小さく笑って唇を寄せた。
柔らかな温もりを受け止めながら正悟の背中に腕を回すと、彼はきつくきつく麻美を抱き締め、更に強く口付ける。
その一連の動作に眩暈を感じながらも、麻美は内心溜息を吐いた。
また暫らく、解放してもらえそうにない。
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