ふとんって、何でこんなに気持ち良いんだろう。
屋根に干されたふとんの上に寝転んで、流れ行く雲を見る。
ふとんの下の瓦がいずいけど、別に気にしない。
私はひとつ伸びをすると、空に手をかざした。
「天気良いな……」
今、家には誰もいない。
万が一、雨が降ってきた時のために、こうして留守番しているのだが、別に付きっ切りで見なければならない訳でもない。
ただ何となく、こうしていたいだけ。
たまの休みを、太陽に抱かれて過すのが、私の楽しみ。
屋根にふとんを干して、その上に寝転がるなんて、街中では考えられなかった。
「すっごい贅沢」
ちょっとした優越感に、思わず笑みがこぼれる。
「何か勿体無いかも……」
この広い空を、独り占めしている感じ。
それが嬉しいやら勿体無いやら、何か変な気分になる。
私はその気持ちを噛み締めるように、ゆっくり目を閉じた。
瞼に陽光が当たって、時折雲の陰が冷たさを運んで来る。
「気持ち良い……」
ふとんと太陽から伝わって来る暖かさを受けて、私は全身の力を抜いた。
懐には、アラームを設定した携帯電話も準備しているから、眠ってしまっても大丈夫だろう。
最近、昼寝ばかりしているな。
そんな事を、遠退く意識の中で考えていた時だ。
突然光が遮られ、次いで私の頬を叩くものがあった。
「……あっ!」
今まで感じていた心地良さは一瞬で消え失せ、私は慌てた。
「ホントに降っちゃうの?」
家の真上には黒い雨雲。
落ちてきたのは、ひんやりとした雨粒だった。
私は咄嗟に、敷いていたふとんを抱え身を乗り出して、戸を開け放した縁側へ投げ入れた。
次いで、一緒に干していた両親のふとんも投げ入れる。
「ふう……」
私自身も部屋に入ると、それを待っていたように雨脚が強まった。
突然泣き出してしまった空に、私は恨めしい視線を送る。
折角眠れそうだったのに。
自然の現象だから、仕方ないと言えば仕方ないが、やはり悔しい。
私は溜息を吐くと、取り込んだふとんを一枚ずつ、元あった場所へ運んだ。
それを終えて、私はもう一度外を見た。
雨は相変わらず強くて、時折稲光も見える。
「……目が覚めちゃった」
ガラス戸を閉めた縁側に座って、真っ黒な空を見るともなしに眺める。
多分、これは通り雨。
遠くの空は明るいから、暫くすると止むだろう。
「贅沢禁止、ってこと?」
溜息混じりに呟くと、私は苦笑した。
「早くもお日様が恋しいよ」
ねだるように見上げてみるが、雨は止みそうにない。
「それなら……」
今夜の夢に思いを馳せよう。
太陽の匂いがするふとんの中、暖かな夢を見られるように。