恋風‐こいかぜ‐

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第20話 Lv.1 ごはんをあげてみよう!


 風馬に食事を与えるため、俺は一旦家に戻った。家と言っても、これは風見家で代々使っている別宅だ。
 本家よりも敷地は狭く、建物もずっと小さい。とはいえ、周りの他の家々と比べると大きすぎるくらいなのだが。

 古い屋根付きの門を潜り、風馬小屋へ続く道を行く。踏み固められた土の上を歩いて行けば、やがて小ぶりな小屋が現れる。
 小屋に設けられた二つの窓の中では、二頭の風馬――兄ちゃんの風雅ふうがと俺の風希ふうきが、仲良く頬を寄せてじゃれ合っている所だった。
 二頭は俺に気付くと、風雅は尻尾を振って挨拶をし、風希はふいっと顔を背けた。……相変わらず、可愛くない。
 風雅の方は、兄ちゃんの相棒って事もあるから当然だが、礼儀正しい上に一挙一動が本当に洗礼されていて、いつ見ても美しい。
 それに引き換え、風希は主人であるはずの俺には懐かない。その他の人間に対しても、人によって態度を変える。気に入らない事があれば、誰彼構わず攻撃する――。
 同じ母親から生まれたとは思えないこの違い。……まるで、俺と兄ちゃんのようだ。

 しかし風希のこの性格も、最初からこうだった訳ではないのだが。
「一体、何がどうして、こうなってしまったんだろうな」
 その理由が分かれば、今の危うい状況を打破する事ができるだろうか。
 俺の声に、あくまでも無視を決め込む風希。頑なな彼の態度に苦笑を漏らし、俺は小屋に大量に積み上げられている飼葉の山に手を伸ばした。
 乾いたそれを動かす度に、草の香りが漂ってくる。
「ホラ、お前達の食事だ」
 風雅と風希、それぞれの餌箱に飼葉を入れてやると、兄の風雅は俺と目を合わせて尻尾を振ってから静かに食べ始めた。
 律儀な奴だと思っていると、隣の餌箱からはガツガツと賑やかな音が聞こえてくる。兄と違って、弟の風希は落ち着きがないし行儀もあまり良くない。
 飼葉は同じ量を与えているはずなのに、風希の餌箱は早くも底が見え始めている。

「風希、あんまりがっつかなくても……」
『うるさい黙れ』
「…………」
 それが相棒に対する言葉か。思わず溜息が出る。

 ごめん、麻美。
 一段階目からして、早くも挫けそうだ。

「はあ……」
 先が思いやられるぜ……。


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