大輪の花が夜空を飾る。
和太鼓にも似たその音は私の腹部を直撃して、そこからじんわりと四肢に向かって痺れが広がっていく。
その感覚はとても心地良いのだが、私はどうしても落ち着きを取り戻せずにいた。
やんわりと握られた手には汗をかき、心臓は花火にも負けないほどの音を立てて響いている。
「しょ、ショウちゃ……」
「すごいな、星型の花火だ。あれってどうやって作るんだろうな」
さっきから、ずっとこんな調子だ。
話しかけようとすると、それを遮って正悟君が話始める。まるで、私に喋らせまいとしているようで……
「ショ――」
「あ、今度は人の顔だ!」
「…………」
正直言って、面白くない。
「ショウちゃん!」
私はムッと唇を尖らせ、繋いだ手をぎゅっと強く握り締める。
するとようやく正悟君は喋るのを止め、油の切れたからくり人形のように渋い音を立てて、ゆっくりとこちらを向いた。
口元の笑みは凍り付いたまま、目を真ん丸に見開いている。
「な、何?」
「何じゃないよ。さっきから話しかけてるのに、全然相手にしてくれないんだもん」
「……ごめん」
謝罪し俯いた正悟君だが、どういう訳か腹の底に燻る不満は収まってくれない。
「良いよもう」
私は握った手を振り解き彼に背中を向けて、その気持ちを表現した。
今回は前のように、「態度の割に怒っていません」という訳にはいかない。むしろ、ここでこそ、この不満を表さなければならないだろう。
「麻美……」
「どうして、あんな事したの?」
振り向かずに問いかけた。
膝の上で両手をきつく握り締め、前歯で下唇を噛んだ。まだ、あの時の感触が残っている気がする。
「……ごめん」
「どうしてっ――!」
謝るばかりで、何も答えてくれないの?
振り返って、叫ぼうとした。が、できなかった。
後ろを向きかけた身体は、途中から半ば強引に引っ張られて返され、正面からきつく抱き締められた。
突然の事に、私は声を出すのを忘れて息を詰まらせてしまう。
この身体のどこに、こんな力があるのだろう。少しの身じろぎもできない。息苦しささえ感じるほど強い力で締め付けられている。
「ショウちゃ、苦し……」
「ごめん」
耳元で囁かれ、背筋がぞくりとする。
「我慢できなかった」
締め付けが少し緩み、私はようやく顔を上げる事ができた。
そっと顔を上げると間近に正悟君の瞳があり、思わず先刻の事を思い出してしまう。気まずさを覚え、視線を逸らしてしまいたかったが、頭の中で「それはしてはいけない!」と叫ぶ声があって、結果私は動けない。
暫し互いに見詰め合っていたが、その後不意に正悟君が頭を傾けて、私のこめかみに頬をくっつける。
その動きに肩を震わせながらも、振り解けずにいる私に構う様子はなく、彼は私を抱く手に力を込めた。
「好きなんだ」
そう言って、正悟君は私の唇に口付けた。
再度奪われた視界の外で本日最後の大玉が花開き、闇に染まる私の目の前を明るく彩った。